「知力を追求するには熊的体力があった方が有利である」という話を昨日したが、それで思い出したのが、Into Thin Air。日本語版は「空へ」という気の抜けた題なのだが、これはもうとてつもない本である。1996年に、エベレスト山頂近くで8名が遭難して死亡した顛末を、それにたまたま同行していた冒険ジャーナリストが書いたもの。いろいろととてつもないことがあり、またあまたの熊的人間が登場するのだが、特に超ど級熊的なのが、12時間氷付けになってから突然起き上がって自力で帰ってきたテキサス男。
下山の途中で超絶的雪嵐に見舞われて、行き倒れる。後になってから救助チームが探し出したのだが、そのときはもう氷付けで、ぶどうサイズの氷が髪の毛にボコボコと氷結、手袋が吹き飛んだ右手がそのまま凍っている状態。それでも、驚いたことに、まだ息があり、ブツブツと何かをつぶやいていたが、エベレストを知り尽くしたシェルパが「もはや助からない」と判断、そのまま放置される。しかしそれからさらに何時間もたってから、突然がばりと起き上がり、ほとんど失明状態のまま一人で歩いてキャンプまで戻ってくる。しかしキャンプといっても、山頂に近いキャンプゆえ、ヘリコプターすら近づけない高地。助かるには、そこから危険な道をたどって絶壁をくだっていかなければならない。キャンプまでは何とか来たものの、既に脈すらほとんどなく「もはやこれまで」と彼を見た誰もが思う。しかし、そこで一晩休んだところ、翌日にはさらに奇跡的な回復をし、ハーネスをつけて自力で歩いて下山するのである。
ちなみに、このテキサスの男性と同じ場所で遭難した日本人女性がいた。彼女はそこで亡くなってしまう。残念ながら、それが普通の人間というものであろう。そこからさらに起き上がって、脈もないような状態で歩いて帰ってくるとは、もはや人間を超えていないか。
***
この本はいろいろと感動的なことがあるのだが、「危機についての話」としても読める。最初の70%くらいは、こまごまとしたディテールばかりの退屈な山登りの話だ。いろいろと小さなトラブルが続くが、特に大きな問題は起こらない。しかし、実はこまごまとした問題は積み重なってだんだんと臨界点に近づく。そして「これだけトラブルがあっても大丈夫だったから、きっとこのまま全て無事に終わるんじゃないか」と思う頃、突然崩壊が始まる。そこからは、もはや阿鼻叫喚の地獄のような状態である。
なお、20キロもある衛星電話やら、エスプレッソマシーンまで持ってきてしまうトラブルメーカーの一人が、Sandy Pittmanという女性なのだが、彼女はあのAOL Time WarnerのCEOだったBill Pittmanの元奥さんでもある。
ちなみに、阿鼻叫喚の危機の只中で突如リーダーシップを発揮、パニックに陥ったクライマーたちを統率して帰ってくるNealという渋い青年が出てくるのだが、この人はうちのダンナが昔人工衛星の会社に勤めていた頃の同僚。ここにも、「理系でも熊的」を裏付ける人がいるのであった。
一番上の写真が気に入ったので大きいのがほしいのですが、
送ってもらえませんか?
平良靖
投稿情報: 平良 靖 | 2004/06/18 04:23
残念ながらこれ以上の拡大には耐えません;-p
投稿情報: chika | 2004/06/21 17:32
やはり、写真を送ってもらえますか。
投稿情報: 平良靖 | 2007/07/14 04:10